黄昏と嘘

でもここは玄関先じゃなくて。
彼女は会社へ行くんじゃなくて。
それから今は朝じゃなくて。
かける言葉も「いってらっしゃい」じゃなくて。

そんなことを思ったらチサトはモモカと別れることは以前からわかっていたはずなのにとても淋しくなり、涙がこぼれてきた。

もう、声にならないような小さな声で別れを言うのがやっとだった。

「……さよなら」

「チサトちゃん……?」

モモカがチサトの顔を心配そうに覗き込む。

心配かけちゃだめだ、わかっていても、何か言おうとしてもここで彼女と別れたらこれからはひとりなんだ、そう思ったら寂しさと心細さで言葉が続かない。

「ごめんなさい。
でも私……」

「……そういうんじゃなくてさ、いつものようにいってらっしゃいって声かけて?」

チサト自身が淋しいからなのか、そう言うモモカの声も心なしか淋しそうに感じた。

「永遠の別れじゃないんだから。
会おうと思えば会えるんだしね。
瀬戸内はいいところよ?いつでも遊びにきて?」

モモカも別れを惜しんでくれている、そう思うだけでチサトは嬉しかった。

「はい……、……絶対に遊びに行きますから」

チサトはできるだけ元気に返事をする。


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