ありふれた恋でいいから

潜り抜けたのはさよならの扉

ただ、闇雲に歩いていた。

足を前に進めることだけに意識を集中していた。

何処に向かっているのか、周りに何があるのか、脇目もふらず。

無意識にきつく手に握り締めていた携帯が再び震え出して漸く我に返り、画面に表示された名前に一筋の緊張が走る。



―――言わなきゃいけない。

通話ボタンを押す指が、酷く冷たかった。






「…職場の近くで迷子になるなんて、案外実乃もおっちょこちょいだよなあ」

「…ごめんなさい。気付いたら見たことのない建物ばっかりで…」

慶介さんから仕事が終わったという電話を受けた時、私は見知らぬ路地にいた。
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