引っ越し先はあたしの隣⁉︎
怒り


~斗真side~








木下が体育館を出たのを見送って、くだらない漫才に視線を戻す。

言っちゃ悪いけど、ほんとにつまらない。この漫才。
てか、これ漫才なの?ってくらいのレベル。
ただふざけあってるだけでしょ。


クスクス笑って貰えてるだけでもラッキーか。


……木下、可愛かったな。

ふとそんなことを思った。
このくだらない漫才を見てるより木下の事を考えてる方がいいと思ったから。

普段化粧とかしない木下が、大変身しているのを目の当たりにして言葉を失ったくらい、インパクトが強かった。

悪い意味じゃない。

俺は心から可愛いと思ったから。

ドレス姿の木下。
髪は下ろされてたけど、元からふわふわしている髪を活かされたように、巻かれていた。

俺にはちゃんとお姫様に見えた。
こんなこと本人には言えないな。


だって目に見える。
顔が真っ赤になって、逃げようとする姿が。

1日目の帰りに『可愛い』って言っただけで顔が真っ赤になる木下だし。



でも、ちょっと気になることがあった。
今日の木下の様子がおかしかったから。
決め手は、俺に向けたぎこちない笑い方。

開演前に眉間にシワを寄せた木下がいたから声をかけた。
その時の『大丈夫』の笑い方が違った。

明らかに無理矢理笑った顔。

一体何があったんだろう。
ふと浮かんだのは、苦しそうに歪んだ木下の顔。
それはあの時、木下に話しかけた男が現れた時にみた表情だ。


なんで、あんなに拒絶してるんだ?
木下に待つとは言ったものの、気になってしまうもんは本音。
彼女が苦しんでるんだぞ?!
それを助けたい、と思うのは彼氏の特権だろ?

ま、あくまでも俺の考えだけど。


今、隣には木下の親友がいる。
聞いても、いいべきか。


「なに?隼田」

「おっ……」

やべ、俺そんな見てたか?!

いきなり向けられた顔にびっくりした。


「や、ナンデモナイ」

「ははっ、なんでもあるでしょ。顔に書いてあるし」

「なんだよー!斗真。菜摘に手ぇ出す気か?!」


飯島は笑って指さすし、その隣でブーブー言う真人。

手なんて出さねーし。
木下がいるし。

真人の言葉は無視して、飯島に聞いた。

一度目を大きくして、少し考え込んでから「いっか」と一言置いて話してもらった。










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