“毒”から始まる恋もある


 いつものように派手な服装をする気分ではなく、珍しく足を封印してパンススタイルにした。
服が地味である以上、化粧もあまり濃くするとバランスが悪い。つけまつげを盛るのはやめて、マスカラだけで仕上げた。


「地味だな……」


 いわゆる清潔感だけは漂うけど、ぶっちゃけ気分は上がらない。
でも、まあいいや。今日は弾けたい気分ではない。


 荷物を揃えて、歩き出す。食欲が沸かず、お昼はカロリーメイトだけをかじった。
半端なく気分が落ちてる自分にため息しか出てこない。

【U TA GE】の最寄り駅まで行って、数家くんの携帯に電話をかけると、直ぐにでた。


『はい。数家です』

「刈谷です。今、駅についたんだけど」

『でしたら、【カメリア】で待っていてください。場所わかりますよね?』


以前、試食メンバーと行った店だ。駅ビルの三階にあるからここからなら直ぐ。数家くんは、そんな他愛無い会話も全部覚えているんだろうか。

不思議な人だ、と思う。
経営者でも無いのに店のことに一生懸命で、料理人でもないのにお店のメニュー評価に真剣だ。彼が目指しているのは何なんだろう。

カメリアに入り、二人がけの席に座る。
ここは昼間は喫茶店だ。飲み物だけでも頼むか、とメニューを見て目を見張る。

ランチの限定メニューのセットの中に、【居酒屋王国】で見たのと外見上は全く同じの水菜とひじきのサラダの写真があった。
 
もちろん、サラダなんて珍しくはない。どこの店だって、ランチにサラダくらいつける。……でも、普通はレタスとキュウリだけとかキャベツだけとか本当に副菜っていう感じだけど、これはしっかりした存在感がある。


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