“毒”から始まる恋もある


 涙が止まって、水を一口飲む。


「はー」


かすれてたらヤバイなと思っていたけれど、予想より真っ当な声が出てホッとした。


「ここ、俺払います。食ったのほぼ俺だし」

「でも呼びつけたの私よ」

「呼んだのも俺ですよ。刈谷さんは電話くれただけでしょう」


そろそろ店に戻らないといけないのだろう。
数家くんは時折時計を確認しながらそう言った。

会計を終えて店の外にでると、店内が暗かったせいかまだ建物内なのに開放感があった。


「悪かったわね、わざわざ抜けさせちゃって」

「いいえ。いいお話を聞けました。ちょっと確認してみて、場合によっては店長にも話します」

「……いつ行くの? 【居酒屋王国】」

「そうですね。定休日に」

「私も行こうか」


そう行ったら、数家くんは変な顔をして私を見る。


「徳田さんの行きつけなんでしょう? 他の男と食事しているのを見られたらまずいじゃないですか」


あ、そうか。
言われてみて、確かにと思う。


「でも、気になるし。変なことがあったら困るし」

「気になるなら、報告のお電話しますよ。それより、色々気をつけてください」


何を?
と首をかしげたら、数家くんが目を細めて私を見つめた。


「……俺は徳田さんのことは信用してないってことです」


ギクッとして唾を飲み込む。
確かに、私も彼を疑っている。
疑いながら恋愛を続けられるのかってことをきっと心配されているのだろう。

答えられずに黙っていると、数家くんがふっと笑った。

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