“毒”から始まる恋もある


今は午前10:00。
【U TA GE】は昼にランチタイムがあったはず。
まだ開店時間じゃないだろうけど、出勤しているかな。

私は迷いつつ、【U TA GE】の番号を押した。


『はい、【U TA GE】でございます』


数家くんだ、と思った瞬間力が抜けてくる。


「あ、あの、私……刈谷」

『もしかして、刈谷さんですか?』


どもっている内に声で判別がついたのか、自分が名乗るのと同時に数家くんに言い当てられた。


『どうかなさいました?』

「あの、……あのさ。あの……」


でも。
何一つ証拠が無いのに、私は何を言う気なの?

パクリと言うには、二つの商品の味は違いすぎる。同じなのはワインで玉ねぎを煮込むというところだけだ。
なのに、こんなこと言ったって混乱させるだけじゃないの?


「ごめんなさい。私」

『ああ。まだ営業時間じゃないので焦らなくて結構ですよ。昨日のお食事で何か気になるところとかありました?』


数家くんは、私がいつものように気づいたところを言うために電話したと思っているらしい。
待つ姿勢を示してくれた彼に、少しだけ力が抜けて、試しに言ってみようという気になった。


「……『E-MESI』で【居酒屋王国】って検索してみて」

『はい?』

「お願い」

『……ちょっとお待ちくださいね』

電話が待ち受け音に切り替わり、数秒後に戻ってくる。

『パソコンは事務所にしかなくて。ええと、居酒屋王国ですね?』

事務所なんてあるのか。
確かにさっきよりなんだか背後が静かな気がする。カタカタとキーボードを叩く音が分かるくらいに。

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