白黒の狂想曲~モノトーン・ラプソディー~

明奈さんが病室を去ってから五分くらい経つ。

私は個室の中をゆっくりと見渡す。

閉められたドアの向こうから、元気な患者さんとナースの笑い声が微かに聞こえている。

そして、今日もやっぱりキミは来てくれたんだね。

「こんにちは」

私の真っ白な世界に時間制限付きの新たな色が混じる。

いつもの黒いマント?に黒い布の薄そうな服。

墨の色みたいに真っ黒なボサボサの髪の毛の中から、更に深い黒の瞳。

「こんにちは」

キミはいつもボソっと呟く。

初めて出会ったあの日に名前が無いと言ったキミ。

私は見た目をそのままにキミをクロと呼ぶことにした。

「今日もご飯美味しかったなー!焼き魚とお浸しっていうのかな?それに真っ白なごはん」

私の一方的な喋りをクロはいつも黙って聞いてくれる。

「あ、そうそう身体の調子も良いみたいでね!歩行訓練が進めば外出だっ…て?」

話している途中に胸の奥から激痛が広がった。

「君に外出はできないよ」

クロは嘘を付かない。

クロが私の前に現れたことが、私に一つの未来が真実であることを黙々と告げる。

「そんなことない。だって…わたし、あっ。まだ」

私は胸に握りこぶしを当てて、うずくまりながら目をつむった。

そして坦々とその言葉を繰り返す。

声には決してださずに、ただただその言葉を祈るように。

こいねがいながら。

ひたすらに。ひたすらに。


そんな時、クロはいつも寂しそうに私のことを見つめているんだ。


そのことに私が気付く頃、胸の痛みは徐々に引いていくのだった。



< 3 / 16 >

この作品をシェア

pagetop