純情女子と不良DK
「はーちゃーん!こっちこっちぃ!」
優聖の勉強を見た次の日、彩音達との約束もあったので待ち合わせの場所まで行くと既に三人はいてこっちに勢いよく手を振っていた。
学校から歩いて20分ほどの場所にあるショッピングモールのファストフード店だ。
先に着いていた彩音、ひまり、良介は取っていたテーブル席から葉月に声をかけている。
葉月も手を振り返して小走りで三人の元へ向かった。
「遅くなってごめんね…!」
「はーちゃん、汗かいてる」
「自転車とばしてきたからね…ふぅ、疲れた」
「そんじゃあ俺、日高さんになんか飲み物買ってきます!」
「えっ?いいよ自分で買うから…て、行っちゃった」
そう言って風のごとく席から立って飲み物を買いに行った良介にどうすることもできず、苦笑いをしながら椅子に座った。
「塚本来なくていいのに、アイツ明らか邪魔!」
「はーちゃんと三人で女子トークしたかったのに」
走って行く良介後姿を睨みながらボソリと口にする彩音とひまり。
「まぁまぁ、そう言わずに…」
「はーちゃん知らないだろうけど、アイツはーちゃんの事“幼稚園の頃の先生に似ててめっちゃ好き!”とか言ってたの。超きもい!」
「えっ」
「だから気をつけて」
「え、ええー…」
幼稚園の頃の先生…とは、一体どんな先生だったのだろうか。その先生と似ていて好きと言われてどう受け止めたらいいか戸惑った。まぁ、好きの意味に関してはおそらく深い意味ではないと思うが。
きもいきもいと言う割りには仲が良さそうに見えるので、微笑ましくも思う。
「買ってきました!日高さん何が好きか分かんないから適当にメロンソーダにしました!あ、金はいいっすよ。奢らせてください」
「あ、ありがとう…」
「つーかまず先に何がいいか聞けよ」
「なんでメロンソーダをチョイスしたの」
「俺が好きだから」
『いやお前の好みで決めるなよ』
戻って来た良介に対し見事に彩音とひまりの声が揃い、葉月は目を丸くしたのち耐え切れず笑ってしまった。
「すごい、息ピッタリだね三人とも」
「え、彩音となら分かるけど塚本含むのは…」
「相川そんな嫌そうな顔しなくてよくね?」
本気で嫌そうに眉を寄せるひまりに若干傷ついた顔をする良介。
見ていて飽きないなぁ、と葉月は小さく笑った。本当に仲良しだ。この三人を見ていると自分が高校生だった時の事を思い出す。
花と洋平と自分の三人で、こうしてよく一緒に遊んでいたっけ。と、思い出が蘇った。
ファストフードで勉強というのも懐かしい。なんだか高校生の頃に戻った気分になる。
「いいなぁ若いって」
それは気が付いたら自然に出た言葉だった。
自分が口にしたその言葉にハッとして彩音達を見れば三人は少し驚いたように葉月を見たいた。
「はーちゃんも若いでしょ」
「おばさんみたいな事言うね」
「高校生ってすごく眩しいよ今の私には」
「大丈夫、日高さん全然余裕で高校生に見えますから!ばっちり同い年に見えますから!」
それもそれでどうなんだ。
葉月は良介の言葉にガクッと肩を落とした。その様子に、彩音とひまりが勢いよく良介の腕と頭を叩く。
「え、なに、痛い!」と声をあげる良介に二人は冷たい眼差しを送るのみ。
葉月は気を取り直して、言い合いを始める三人の会話を聞きながら鞄に入れたテスト対策のノートなどを出していく。
「はーちゃん、そのノート何?」
葉月が出しているノートを見たひまりがすかさず聞く。
彩音と良介も動きを止めて葉月を見た。
葉月はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
「テスト対策ノートです!ここが出そうかなぁとか、覚えた方がいい公式、それからもっとはやく答えが求められる計算式とか、あくまで私個人の予測とかだけどテストで大事な部分をまとめてきたの。昔のノートとか見ながらだけど」
…が、三人は無言の無反応だった。
目を丸くしてポカンとしながら葉月を見ているので、「しまった」と慌てる。
さすがにここまでしては引かれたかもしれないなど色々考えてしまい、顔がサァッと青ざめていく。
咄嗟に弁解しようとしたその時、ひまりに勢いよく両手を握られて今度は葉月が目を丸くさせる番だった。
自分の手を握るひまりの目はとてつもないほどに輝いていて、見れば彩音や良介も同様だった。
「葉月様…!!」
「無理好き一生着いてく!」
「え、えっ」
「日高さんまじデキる女っすね!」
「…と、とりあえずお役に立てそうで良かった…」
変な心配は無用だったようだ。