SAKURA ~sincerity~
 小さな声が震えている。だが、はっきりと“俺じゃなきゃ”と言われ、拓人は動揺し、再び言葉を失った。一方、自分の言った言葉が恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にし、桜がうつむく。その姿が、まるで冷たい風に吹かれながら頑張っている花の蕾に見え、拓人は思わず表情を緩めた。

 かわいい。

 それは、正直な気持ちだった。今にも風に散ってしまいそうな桜が、たまらなくかわいく見えた。

「俺こそ、よろしく」

 ようやくそこまで言うと、拓人は恥ずかしそうに携帯電話を取り出し、桜に差し出した。「番号とメアド、交換しよう」

 拓人の言葉に、不安そうだった桜の顔が途端に驚きの表情に変わる。それはまるで、さっきまでの蕾が一気に花開いたような、鮮やかで優しくて綺麗な表情で、拓人は思わず見とれてしまった。

「あ、ありがとう」

 大きな黒い瞳から真珠のような涙をこぼしながら桜が口元に手をやる。そのまま号泣し始めてしまった桜に、拓人はまたもや困った顔で携帯電話を持ったまま、その場に立ち尽くした。

 校庭の桜が満開を迎え、風にはらはらと花びらを散らしている四月、二人は恋人になった――。
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