SAKURA ~sincerity~
「本当にありがとうございました」

 史朗たちと共に深々と頭を下げる拓人に、椎名は泣き腫らした真っ赤な目で視線を返し、こう告げた。

「五年前に……親友を亡くしたんです。桜ちゃんと……同じ病気で」椎名の言葉に拓人が息を呑む。椎名はうつむき、ゆっくり先を続けた。

「親友が亡くなった時、何もできなかった自分が凄く悔しくて、それで……看護師を目指したんです」

「そうだったんですか」

 椎名の言葉を噛み締めるようにうなずき、拓人はそう言った。

「桜ちゃんと話してると……本当に楽しかった。桜ちゃん、本当に風間さんの事、大切に想ってたんですよ」

「はい」

 椎名の言葉に拓人は照れる事なく、素直にうなずいた。

 判っています。桜からは本当に、たくさんの愛を貰いました。

 椎名が一礼し、教会から去って行く。拓人はじっと、その背中を見送った。




 拓人の振るシェーカーが、心地いい音を店内に響かせる。

 葬儀の夜、バイト先のバーのカウンターで、拓人はカクテルを作っていた。

「いい音」

 シェーカーの音を聞きながら七海がささやく。カウンター席には準平と七海が一席空けて座り、他に客はいない。本当は休みだった店を、拓人が無理を言い、自分たちの為だけに開けていた。

 拓人のシェーカーからグラスへと、深い紅のカクテルが注がれる。

『退院したら準平たちと来いよ。チェリー・ブロッサムで乾杯しよう』

 そのカクテルは以前、桜に飲ませると約束したあの、チェリー・ブロッサムだった。

「綺麗」

 赤褐色のカクテルを見て七海が呟く。カウンターには同じカクテルが四つ並べられ、準平と七海の間の空席にその一つが置かれた。

「乾杯」

 拓人が自分のグラスを持ち上げ、そのグラスにカチンと軽くグラスを合わせる。

「乾杯」

 続いて準平。

「乾杯、桜」

 最後に七海がグラスを合わせ、それから三人はゆっくりグラスを口に運んだ。

「案外キツいんだな」

 グラスを置いて準平が言う。
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