SAKURA ~sincerity~
 拓人はデイバッグから小さな瓶を取り出すと風上に背中を向けるように立ってキャップを外し、風に飛ばされないよう気をつけながら、二人の掌に白い粉を出し、最後に自分の掌に残りの粉を全部出し、強く握る。

「行くぞ」

 七海を挟んで三人で立ち、準平の合図で、三人は風下に立つ桜の樹に向かって腕を伸ばすと、握っていた掌をゆっくり開いた。

「わぁ……」

 七海が思わず声をあげる。三人の掌の白い粉が、春風に舞い上がり、満開を過ぎ、散り始めた桜の樹を取り囲むように白く包み、花吹雪と同化して大気に紛れてゆく。

「バイバイ! 桜!」

 輝くような笑顔で七海が言った。

「元気でな! 桜!」

 七海の次に、準平がやはり笑顔で言う。拓人は唇を一瞬結んだ後、照れくさそうにはにかみ、こう言った。

「愛してるよ、桜」

 拓人の放った言葉に一瞬、準平と七海が真顔で目を見開いた。が、二人はすぐ笑顔に戻り、風に花びらを散らして花吹雪を作り上げるその景色を見つめた。

 愛してるよ、桜。

 準平が教えたのだろう。校庭の入口に寄り添って立つ史朗と弥生の姿が見える。

 いつか、俺たちがそっちに逝くその日まで、元気でな。

 風が三人の髪をかき上げ、花びらを青空へ巻き上げる。三人はいつまでもいつまでも、その美しい光景を見つめた。
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