銀座のホステスには、秘密がある
初心
「何にするの?」
「一回、お着物に挑戦したいと思ってたのよね」
「樹里も?実はアタシもなの」
「じゃ、今年はやっちゃう?」
「うん。やろう!」

これまでのアタシたちはドレスばかりを着てた。
新人の頃は丈が短めのワンピース。
最近は裾まで長いタイプの身体のラインが綺麗に出るタイプ。
お着物は、ママクラスの人たちしかうちの店では着てなかったけど、
憧れはあった。

お着物って大和撫子って感じがする。
殿も絶対喜んでくれそう。


「サラ。着付けできんの?」
「うん。前にやったことがある程度。もう忘れたかも。樹里は?」
「あたし、全く出来ないんだけど……」

最近のお店での会話は、仕事始めの日に何を着ていくかってこと。
みんな気合が入りまくってて、もう注文したって人までいる。

「あかねママ。あたしとサラと、今回お着物に挑戦していい?」

出勤前にちょっとだけ立ち寄ったって感じのママがメイクルームに顔を出した。
着替え前、髪もセット前で、メイクも薄め、それでもやっぱり目を惹く美人にちょっと嫉妬しちゃう。

「お着物にするの?持ってんの?」
「持ってない」
アタシは答えて、樹里は首を横に振った。

「今からじゃもう間に合わないわよ。でも、そうね。いいかもしれない」
あかねママの動きが止まってジッとアタシたちを見てる。

樹里と軽く目が合う。

……どうなるんだろうね。

「うん。そうなさい」
突然動き出したあかねママは樹里の横に並んで、
「樹里ちゃん。あたしのを貸してあげるから、今年の仕事始めはお着物になさい」
樹里だけOKが出た。
「ありがとうママ。あと着付けも教えてほしいんだけど」
「着付けはローラちゃんの方が上手よ。なんたってあの人本職だからね」
「本当?」
「あとで来るからお願いしてみなさい」

話が盛り上がってる樹里とあかねママ。
アタシは?

「ねぇ、ママ」
「サラはねぇ」
「なに?」
そんなに眉をしかめないでよ。

「あたしのじゃ丈が足りないのよねぇ。残念だけど今年は我慢して、来年は早めに頼むのよ。じゃないと出来上がりに時間がかかるんだからね」
「そんなぁ。樹里だけズルい」

アタシだってお着物着たかった。
殿に着物姿を見て欲しかった。
それで殿と初同伴したかった。
ううん。もしかしたら同伴なんてチャンス二度とないかもしれないのに……

「お願いママ。アタシにも貸して」
「だから無理だって、足元が出ちゃったら格好悪いでしょ?」
「でも、どうしても着たいの」
「でも、サラ程背の高い人って言ったら……あ、一人いたわね」

アタシ程背が高くて、着物を持ってる人……なんとなくアタシにも誰だか予想がついた。
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