銀座のホステスには、秘密がある
木枯らし
それから数日後、お店に殿の姿を見つけた。

だけど、他の方のお席についてるアタシはお呼びが来ない。
チラリとゴンちゃんの方を見るけど、
ゴンちゃんは「何?」って顔を返してくるだけ。
アタシは首を振って接客に戻ったけど……

「サラちゃん!さっきのあれは何?お客様に失礼でしょ!」
ローラママに怒られた。

「ごめんなさい」
お客様を見送ってエレベーターに乗った瞬間だった。
「お客様は気付いてなかったみたいだけど、あれじゃこの席から移りたいって言ってるようなものでしょ!」
「……」
「移りたかったの?」
「……いいえ」
「じゃ、用がない時はゴンちゃんの方は見ないで。目の前のお客様に集中しなさい」
「……はい」
「声が小さいわよ!ちゃんと食べなさいよ。またアサイーとかなんとか訳わかんない物ばっかり食べてるんでしょ。米よ。白米よ。日本人ならご飯を食べなさい。だいたいね、あたしたちは朝なんて起きらんないんだから、朝にいい物より夜にいい物を食べたらどうなの」
「あ。ローラママ。アサイーって朝に良いって意味じゃなくて、アサイーって言うのが果物の名前で……」
「分かってるわよ。それくらい!」

前を歩くローラママの背中のお肉がプルンと揺れた。
また怒らせてしまったみたい。

「ほら。ゴンちゃんが呼んでるわよ。さっきみたいなことは絶対にしないこと!分かった?」
「はい」

ローラママは先に他のお席に戻っていった。
それを見計らったかのように、ゴンちゃんが近づいてきた。
「どうした?」
「怒られた」
「珍しいね。最近はあんまり怒られなくなってたのに」
「ううん。そうでもないよ。ローラママはアタシが嫌いなのよ。食べる物にも注意してくるから」
「そんなことないと思うよ」
「ううん。そうなの。それより指名?」
「そう。1番のお席」
「了解!」

そこは殿のお席。

弾む気持ちを抑えながら、スキップする勢いでフロアに出て行った。
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