禁忌の泪
窓の景色
 窓から見る景色はいつも通り。緑の絨毯を敷き詰めたような田んぼの色が目に眩しい。
 これから暑くなるだろう日々にあたしはうんざりし、ため息をついた。
 朝から小テストなのに英単語が一つも頭に入らない。
 毎日同じ顔ぶれが乗る学校までの電車に揺られる時間が、たった30分我慢すればいいはずなのに、さっきから落ち着かないあたしはやたら、向かいに座る学生服の男の子ばかり見てしまう。
 揺れる場所で、必死で漢字を連ねる光景が羨ましい。
 2年になって、パートのイザコザでブラスバンド部を辞めてからというものの、真剣味に欠ける毎日。暇になったはずなのに、中間テストの成績は50番くらいがた落ちするし、寝坊もするようになった。
「次は春が丘高校前」
 とアナウンスが入り、隣りの女の子はノートを閉じて、右斜めに座る子は、ケータイから伸びたイヤホンを外す。
 あたしは、単語帳をしまえない。
「春が丘高校前」
 アナウンスが教えてくれる。
 立ち上がる女の子のスカートと夏服の後ろ姿が横目に入る。
 あたしは、動けない。 お尻に根が生えたみたいに、立ち上がれない。
 立たなきゃ。
 そう思うほどに、動けない。
 扉が閉まる。
 肩越しにホームを見ればクラスメートのポカンと開いた口が目に入る。
 あたしは、ゆっくり前を見た。
 電車は、次の駅を呼んだ。
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