Fly*Flying*MoonLight

PM2:15 社長室

「……変、だな……」
 契約書をざっと一通り確認したが、特に不備な点は見つからなかった。

 ――今日中にどうしても見直してほしい、と連絡があったのが今朝。
 今まで取引のない会社だが、業績も申し分なかった。

「……」
 何か、がおかしい。勘、というか……。
「誰かが……仕組んでいる……?」

 ――その時、何か、がはぜるような音がしたかと思うと、扉の隙間から、灰色の煙が入りこんできた。

「……!!」
 席を立ち、扉を開ける。
「……これは……っ!!」
 派手に咳き込んだ。秘書室に煙が充満していた。思わず後ろに、一、二歩下がる。

「っ……!」
 身体が、痺れたように、動かなくなる。
(く……そ……っ……!)
 ガタガタと膝が震える。血の気が引いていく。

 ……おとうさん!
 ……おかあさん!

 『あの時』の惨状が、目の前をよぎる。

 炎が、全てを、飲み込んでいく。
 息が苦しい。肺が焼けるように痛い。髪が焦げる匂い。手を伸ばしても届かない。

「――っ!!」

 ……炎に……覆われて、いく……

 気……が……遠……く……




「……和也さんっ!!」

 柔らかな感触。薔薇の匂い。

 時間が……今、に戻る。

「……か……えで……?」

 楓が――俺に抱きついて、いた。
< 29 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop