Fly*Flying*MoonLight

AM10:30 薔薇園会場

「……では、花嫁の入場です。皆さま拍手でお出迎え下さい」
 葉山さんの声に、おじいさまが私にウィンクした。
「さあ、行きますぞ」
「はい……」
 おじいさまの左腕に、右腕を絡ませる。薔薇のアーチをくぐり、庭に敷かれた赤い絨毯の上をゆっくりと歩く。
 管弦楽の生演奏が、静かに薔薇園に響く。みんなの拍手。祝福の声。
 ブライズメイドの美月さん達が、白いベールの端を持ってくれている。和也さんの親戚の女の子達が、薔薇の花びらをお客様へと撒きながら、私たちの前を歩く。

 絨毯の先に、設えられた白い祭壇。教会の神父様が聖書を持ち、待っていて下さっている。

 ……その前に

 ……白いタキシードを着て、胸に薔薇を差した和也さん、がいた。

 胸がどきん、とした。
 和也さん……瞳が、熱い……。

 和也さんの胸のムーン・スター・ローズの花がきらり、と光った。私のブーケも光を反射してきらきらと輝いていた。
「……楓さん。和也をよろしく頼みますぞ」
 そう言って、おじいさまが私の右手を和也さんの左手、に重ねた。

 私は和也さんの左腕に右手を絡めた。腕を組んだまま、祭壇の前へと進む。

 和也さんが小さな声で言った。
「……綺麗、だ」
 ベールの下で、頬がかあっと熱くなった。
「……和也さんも……素敵です」
 少し俯いたまま、小声で囁いた。

 和也さんの熱い瞳に……溺れていく、みたい……。 

 そのあとの事は、ぼうっとしていて、よく覚えていない。

 気がついた時には……



 ……唇に、甘い甘い、永遠の誓い、を受けていた。

「……楓……」
 キスの終わりに、和也さんが低い声で囁いた。
「……愛してる」
 思わず熱くなった頬を、ムーン・スター・ローズのブーケで隠した。
 そんな私を見て、和也さんが笑った。

 優しい笑顔。幸せそうな笑顔。

 ……小さい頃の和也さんに、してほしかった、笑顔。
(あ……)
 ……和也さんの後ろにいた小さな男の子が、笑いながら消えていくのが、見えた。

 ……あなたが和也さんの中で、ずっと笑顔でいられるように、私がずっと傍にいるね。

 ……そう、心の中で、約束した。
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