Chi sono io?〜私は誰?〜

uno


「あいつに近づいたら呪われそうだよな」

歩道橋を渡っていると聞こえた声。
周りに誰かいただろうか。
しかし、辺りを見回しても誰もいない。
唯一、視界に映ったのはひらりと舞う一匹の黒い蝶。
蝶が喋るわけないのに、何故か気になってしまう。
蝶を追いかけていくと、
「ここ…どこ?」
全く知らない場所にいた。
田んぼや畑に囲まれ、小さい家が数軒あるだけ。
いつの間にか蝶も見失ってしまった。
どうすることも出来ず立ち尽くす。
「君、この辺りでは見ない子だね。迷ったのかな?」
いつからいたのか長身で細身の青年が立っていた。
私と同じ蒼色の瞳が印象的だ。
カッコイイな…ってそうじゃなくて!
「あの…此処は?」
「此処は比良坂村。自分を見失った者が辿り着く場所」
比良坂村?聞いたことないけど…それに最後のほうは声が小さくて聞こえなかった。
「どうやったら帰れますか?」
とりあえず早く帰るに越したことはない。
「あの森にトンネルがある。そこを通って行けば帰れるよ」
「ありがとうございます!」
私は帰り道を教えてくれた青年に頭を下げて歩き出した。
「ちょっと待って」
思わず肩を震わせた。
手首を掴まれたからというのもあるが、何よりその手がとても冷たいことに驚いた。
「トンネルの手前に小屋がある。そこには入るな。もし追いかけられたら全力で走るんだ。それから決して後ろを振り向いてはいけない。これだけは絶対守って」
「わかりました」
もう一度お礼を言って私は駆け出した。
「…無益なものになってしまうからね」
青年が何か言っていることにも気付かず。

「もう少しで…」

< 2 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop