Chi sono io?〜私は誰?〜

tre


笑顔が零れたのも束の間。
背後に形容し難い気配を感じた。
この世のものとは思えないほどの負の情。
突然、猫が走り出した。
私もそれに続く。
背後に感じた気配も追ってくる。
トンネルに入ったところで蝶が視界を掠めた。
黒い蝶だ。
-置いて行かないで。
蝶が悲しげに蒼白く煌めいたような気がした。
-決して後ろを振り向いてはいけない。
先程の青年の言葉を思い出した。
振り向くも何も、今の私にそんな勇気はない。
「置いて行かないで…」
ハッとした。
後ろから今にも泣き出しそうな少女の声が聞こえたからだ。
思わず足を止めると、猫が足許によってきて早く進めと言わんばかりに押してきた。
だが私はゆっくり振り返った。
心の中で青年に謝りながら。
だってさっき聞こえた声は…

-幼い私の声だったから。

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