桜の木の下で
第一章 二人の出会い
ひらひらと、桜の花びらが舞う。
ほんのりと色付く桃色は、辺りに春の訪れを教えてくれる。
暖かな春風が吹き抜け、思わず髪を抑えた。

そんな辺りの景色に、思わず瞬きをしてしまう。
私は一体全体、何でこんなところにいるんだろう。
思い出そうにも、まるでその部分を綺麗に切断されたように。
記憶『そのもの』が存在しない。
何だかとても、嫌な感覚。

「……でも」

目の前の桜の木を見上げた。
何でだろう。
この桜を見る度、胸の鼓動が高くなっていく。
そして、自然と涙が零れ落ちた。

「あ、あれ……?」

何で涙が出たんだろう。
花粉が目に入ったのかな……。


とりあえず私は今、何処にいるのかを確認しよう。
辺りの様子をかるく見回しても、人の気配は全く持って見当たらない。
私自身が動き出さなきゃ。

ゆっくりと身を起こし、私は先の見えない道を一歩踏み出すことにした。

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