シルビア




彼がいなくなり、寂しさと悲しさ、自分のバカさに毎日泣いた。

ひとりきり、誰に弱さを見せることも出来ずに。



だってこんなこと、家族にも友達にも言えるわけがないし、ましてや職場の人には絶対言えない。

『彼氏に逃げられた』と後ろ指をさされ笑われたり、『可哀想』だとか同情をされるくらいなら、今のようにただの枯れた女というネタで笑ってくれたほうがよっぽどいい。



そのこころはいつしか自分を守る殻を強くして、ひとりで生きていかなければ、強くならなくてはいけないと自分に言い聞かせるようになった。

気付けばもう、思い出して泣くこともなくなってしまった。



以来、恋はしていない。

いなくなるまでその重みを知ることも出来なかった、こんな私がまた恋なんて出来るわけがない。



逃げ込むようにただひたすら、仕事ばかりの毎日。

あの指輪は、どうしてか捨てることも出来ず部屋の隅に置かれたまま。



『幸せが逃げちゃいますよー?』



先程女の子たちが言っていた言葉に、思う。幸せって、どうやったらなれるのだろうかと。

逃げるもなにも、そもそもその“幸せ”のなり方が分からない。



普通の幸せ。好きな人と毎日一緒にいる、永遠を誓うことができる。ただそれだけの、“幸せ”。

そこにたどり着く道もわからず、同じ道を行ったり来たり。



この歳になっても、私は迷ってばかりだ。






< 11 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop