シルビア




「上手くやってくださいね、凛花さん」



私の背後に隠れた葛西さんは、そうコソコソと小声で耳打ちをする。



「葛西さん、それでも一応上司なんだから自分でまとめてくださいよ……」

「女同士の争いに男が入るといいことないですから」



それは確かにそうかもしれないけど……。

相変わらず頼りにならないその態度に、ますます溜息は重くなる。



けれど営業部の男性社員も皆葛西さんと同じ気持ちらしく、ピリピリとした女性陣を少し引き気味に見るだけだ。

初日からこれって……先が思いやられる。



「まーまー!女の子たちがそんな怖い顔してたら、可愛い顔が台無しだよー?」



そんな中、ピリピリとしたムードを破るように間に割り込んだのは、望。

白いシャツに今日は紺色のカーディガンを着た彼は、彼女たちの鋭い目つきに睨まれながらも、へらへらといつも通りの笑顔を見せる。



「せっかく同じ会社の仲間になったんだしさ、仲良くとまではいかなくてもそんないがみあうことないじゃない」

「だって!」

「こっちが!」

「ま、とにかく挨拶も終わったことだしそれぞれ仕事にとりかかりましょうねー。よし、行こ行こ」



そのフォローも虚しく終わることのなさそうな言い合いに、望も長引かせるのはよくないと思ったのだろう。

黒木ちゃんたちの背中をトントンと押して、自分たちのフロアへと戻らせる。



……ああやってすんなりと嫌な空気にも入っていけちゃうのが、望の長所だよね。

他の男性社員は遠巻きに見ていただけというのもあり、自ら空気をどうにかしようと動く彼は、やっぱりすごい。

まぁ、女性陣のいざこざは望の軽い口のひとつやふたつで収まりそうにはないけど……。



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