シルビア



どうせ仕事、営業。皆に同じことを言っているに決まっている。

そう思いながらも、惹かれる気持ちは止まらなくて、いつしか本を買いに行くという口実で、彼に会いに行く自分がいた。



『……予約したい本があるんだけど』

『予約?いいよー、じゃあここに名前と本の名前書いて……』

『これ、私の連絡先だから。……届いたら、連絡ちょうだい』



要するに、『連絡先を教えてあげる』ということ。今思えば、遠回しすぎるうえにかわいげのかけらもない言い方。

だけど、そんな私の態度にも望は意図を読み取り嬉しそうに笑ってみせた。



『じゃあ、連絡するね。俺の携帯から』



いつだって素直になれず、かわいくない態度ばかりしてしまう。だけど望はそんな心に触れるように、優しい笑顔と言葉をくれる。

そんな彼とだから、一歩ずつ、一歩ずつ進んでくることができた。



まるでラブストーリーのような、甘い日々。

そんな幸せだった時間を思い出すから、あの書店にはもう行けずにいる。





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