ユウウコララマハイル
好きなジャンルの本だけを読み散らかすわけにはいかない。
苦痛を伴う読書もある。
そして仕事にすると数字を見なければならないのだ。
趣味はあくまで楽しむものであって、店の利益を考えると好きな本も商品として見てしまう。


「古沢の場合は私と違って、趣味もいくつかあるし」
「今のところ趣味は料理だけだよ」
「嘘つき、修理も趣味でしょ。むしろ趣味じゃなかったら、あんなに道具集めないでしょ」


古沢は昔から異様に手先が器用だった。
パソコンの分解・組み立てはもちろんだが、掃除機やシュレッダーなどの電化製品の不具合を直してしまうし、裁縫も得意で衣服は当たり前に作れる。
その上ドレスなどのリメイク、簡単なバッグやぬいぐるみまで作れてしまうのだからあっぱれだ。
ナツミは押入れに何十万もしそうな高級ミシンが二台あることを知っている。
凝り性という特技は天使屋でも発揮されていて、高齢の方はカフェではなくご飯も食べられるお洒落な修理屋だと思っている人もいるようだ。


「趣味がいくつかあるから、ほどよく分散されて毎日楽しいんだよね、古沢は」
「楽しいわけじゃねえよ」
「じゃあ、言葉を訂正する。楽しそうに見える」


ナツミは反論しそうな古沢を無視して「デザート」と呟いた。
古沢はナツミの皿の上を確認し、かき込むようにして一気に完食した。
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