気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 追いつきたい。手を伸ばした。触れたい。抱きしめたい……。

 初めは憧れだった。父の会社の学習雑誌の売上げを押し上げるやり手の企画立案者。彼女の企画なら絶対に大丈夫。けれど凜香はそうした周囲の評価におごり高ぶることなく、誰にでも平等に接する。上司にも冷静に意見するくらいだ。被害妄想の課長を何度凜香がやんわりとたしなめ、透也をかばってくれたことか。

 どうしたら彼女に追いつけるんだろう。彼女はどこからアイディアのヒントを得ているんだろう。その秘密を知りたい。

 それだけのつもりだったのに、今の透也はそれよりも多くを望んでいる。

(彼女の素顔を暴くために振り回していたつもりが、俺の気持ちの方が振り回されている気がする)

 そんなことを考えながらぼんやりしていたら、背中を叩かれた。

「やったー、透也くんが鬼!」

 いつの間に来ていたのか、背後で成実が笑っている。

「タッチ返しはなしだからね~」
「仕方ないな。じゃあ、凜香をつかまえてやる」

 透也は公園をぐるりと見渡した。心をとらえて離さない一人の女の姿を探して。


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