スナップ写真

【コースター】

【コースター】


お気に入りのグラスの中で、氷がころんと転がり、涼しげな音を響かせる。

その音に誘われるままに、私は文庫本に目を落としたまま、グラスに手を伸ばした。

指先を濡らす水の感触に驚いて顔を上げる。

どうやら物語にずいぶん没頭してしまっていたようで、いつの間にかアイスコーヒーは氷の溶けた水でツートンカラーになり、グラスに結露した空気中の水分がテーブルに小さな水たまりを作っていた。

小さくため息をついて、私はティッシュを二、三枚取って、グラスに付いた水滴と濡れたテーブルを拭き取った。

アイスコーヒーを一口飲んでグラスをテーブルに置き、小さく丸くなった氷をかりかりとかみ砕きながら栞を挟んでいたページを開く。

これを読み終わったら、雑貨屋さんにコースターを買いに行こう。

そんなことを考えながら再び物語の世界に浸る。


夏の午後。さながら汗ばんでいるかのようなグラスの肌を水滴が伝って落ちていく。


Fin.
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