スナップ写真

【待ち時間】

『待ち時間』


電車待ちのホームのベンチに座り、時刻表を見上げる。

そろそろ来る頃だ。

俺の後ろのホームに電車が止まる音が聞こえ、いくつかの足音が降りてくる。

聞き慣れたいつもの足音が近づいてきて、俺が座っているベンチのそばに立つ。

さも今気づいた風を装って顔を上げると、予想通りの彼女がいた。

お互いに軽く会釈を交わし、彼女は俺の隣に一人分ぐらいのスペースを空けて座り、ハンドバッグからブックカバーが掛けてある文庫本を取りだし、栞を挟んでいたページを開く。

いつもどおりの日課。

名前も知らない彼女と俺が、毎朝10分だけ共有する時間。

気づかれないようにそっと彼女の様子を窺う。

彼女はかなり読書好きらしく、読んでいる文庫本の厚さは毎回違う。

「ふふっ」

思わず笑みをこぼした彼女はハッと顔を上げ、俺と目が合った。

「……」

数秒の沈黙の後、彼女はちょっと恥ずかしそうに笑って肩をすくめて見せた。


Fin.
< 5 / 8 >

この作品をシェア

pagetop