SECOND プリキス!!


天真side


灰音の衝撃発言を受けた初伊は、まるでよくある漫画のようにフラっと後ろに倒れていった。

咄嗟に腕が出る。

ギリギリだったけれど、抱きとめられたから、怪我はないだろう。


どこかチェーロと同じ雰囲気を醸し出す、アクアマリン色の瞳は今は静かに閉じられて。

思いの外顔色が悪い。外国の血が入っているであろうから、元から肌は日本人よりは白い子だったけど、今は真っ青といった感じだった。



「どっ……どうしよ、初伊!きゅ、救急車?こういう時は救急車?!」

「落ち着いて下さい。脈は……しっかりしてますし、呼吸も乱れはありませんから……過度のショックによる気絶でしょう。」



泣きそうな声で狼狽える灰音。

彼を落ち着かせる為にも冷静に事実を伝える。

返ってきたのは、何がなんだか分からないといった感じ、きょとんとした感じの反応だった。


「過度のショック……?何が……?」

「灰音がシエルのデザイナーだった事。」

「………………それって、そんな倒れる程驚く?」

「馬鹿ですか。」





灰音は軽く、私の腕の中の初伊の頭をなでた。

「シエルは嫌いにならないでね」と呟いて。

初めはきっと、初伊への謝罪の気持ちで、軽く髪を梳いたりしていたのだけれども、どんどん彼の瞳は真剣になっていく。


「見て。髪質いいね。ロングなのに毛先が傷んでないんだ……。…………この隙に俺の持ってるトリートメントしちゃ駄目かな。もっとツルンツルンになるんだけど。」

「やめなさい。」








「あと……3着か……。」

悩ましげな声で灰音は言う。



今作ったであろうデザインを合わせると4着分が灰音の担当らしい。

シエルには、セブンス・アンジュという存在があって、ランウェイを歩くのはいつも彼女達七人だ。

セブンス・アンジュは、シエルの専属モデルの事。

世界でも名を馳せるファッションブランドの広告塔に選ばれるのは、狭き門をくぐり抜けてきた所謂スーパーモデル達。

そんな彼女達に着せるドレスの、7分の4……半分以上が学生である彼の作品。

それを聞くだけで、シエルにおける……いや、業界における灰音の地位の高さが伺える。



「初伊が欲しいなぁ。もう無理だろうけど、初伊でデザイン出来たら最高だったのに。」


独り言を言うように、初伊を見つめて言う。

諦めたように聞こえるけれど、その瞳に篭るは“執着”であった。それも狂わしい程の。



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