SECOND プリキス!!


「いい!最高、素晴らしい……!なんて美しいんだ……ああ、黒髪の女性はやはりエキゾチックな美しさがある。それはまさに……椿。そう!!椿だ……次の花は椿!さぁ初伊、壊れそうな儚さと絶妙な色気、触れたいけれど触れられない、芯の強さを出して!」

「なんて無茶難題」

世界的有名デザイナーであった灰音のアトリエは、パリ郊外の、白い壁に新進気鋭のアーティスト達が装飾を施した、少し古いアパートの1室であった。


「ですって、初伊。壊れそうな儚さと絶妙な色気をふんだんにどうぞ。」

「彼氏いない歴イコール年齢のお手本のような非モテの私に何を要求するので!」



ロンドンに到着して早3日。

私はほぼ1日の全てを灰音と一緒に、そのアパートで過ごしている。
その部屋は広めのワンルーム。部屋に備え付けられた大きな窓からたまに外を覗けば、まるで映画のワンシーンのような光景が広がっていて、見慣れたロンドンだけれどもちょっとドキドキしていた。

部屋はthe・芸術家と言った感じ。
北校の灰音のアトリエと同じように、大量の布やスケッチブックに溢れていて。

なんとなく連れてこられて、帰りたい!って騒いだけれど……。
世界中の老若男女を魅了するシエルの服は、こんなふうに出来てるんだって知ることが出来る、信じられない位凄い経験をしてるんだなってかなり感動。



一緒にこの地に降り立った先輩は、時々こんなふうにひょろりとやってきて、灰音や私にちょっかいを出して灰音に怒られて何
処かに消えていく。

そう。完全に別行動なんですね。


「彼氏いない歴が年齢……?……哀れですね。」

「哀れまれると余計ウザイです、先輩。」



フェロモン先輩は、にこにこと私の地雷をどんどん踏んでくる。
ちなみにうっかり踏むわけじゃない。敢えて踏みに来るから確信犯。
はじめこそ、「うっ……!」とか「(反論できない……!)」とか、下手に出ていた私だけど、今じゃ結構反論するよね。


「先輩に……そんな口、聞いていいとでも?悪い子にはお仕置きしますよ。」

先輩は、本気かジョークか分からない妖しい雰囲気を醸し出しながら静かに私のほっぺを押しつぶしてくる。

だがしかし!成長した私は負けないのです!負けず反論!

「ふぉんふぁのこふぉふぉっへをふふすふぁんてふぁいあふふぇ」

「あっはっはっ!」


反論、撃沈。
先輩を楽しませただけだった。
そしてその後も先輩は、灰音にちょっかいを出して、灰音に「出てけ!」って言われて追い出されて帰っていった。






「先輩って、今何処で何してるんだろ。」

そんなやりとりがその後3日間もずっと。
そんな生活続けば流石に私も気になってしまう。

今日の仕事にひと段落がついて、私はシャワーを貸してもらって一浴び。
シャンプーは灰音セレクトの超さらっさらになるやつで、なんとブラッシングまで灰音がやってくれています。
あまりに致せり尽せりすぎて、申し訳ないあまり最初はずっとお礼を言ってたんだけど。

「俺がやりたいからやってんの。むしろこっちがアリガトウ」

「ど……ドウイタシマシテ……?」

……どうして私がお礼をされたんだろうか。



という訳で今日もお風呂上り、ブラッシングをされながら、灰音とお喋り。
その途中で先輩について聞いてみることにした。


「天はね~、きっと仕事してる。」


いつも通り、かる~い口調。
ふーん、そうなんだ~なんて聞き流しそうになる程に、灰音はなんともないように話したけれど、絶対聞き流せない内容に頭が覚醒する。


「仕事……って、北原の?」


What?



「今は北原の所の新プロジェクトの責任者補佐だからね。といっても実際は責任者か。あ、それよりさ、明日ヘアパックしてもい」

「待って待って待って」

「あれ、ヘアパックとか好きじゃない派?」

「そうじゃなくて、そこじゃなくて。」

「ちなみに俺はたけのこ派。」

「えっ私はきのこ一択…………じゃなくて!」


天真先輩が北原のプロジェクトの責任者だとかいう聞き間違えでもおかしくないような話はヘアパックとたけのこにやられて流されそうになったけど、本題に戻ろうか灰音さん。



「……いくら御曹司といえども……高校生が北原財閥のプロジェクト動かしてるの……?」

「ああ見えて奴は有能なのでした。」

「うん、絶対爪を隠してる鷹だって事は分かってた……」

「全国の高校2年生涙目だよ……」

「ほんとそれな」

「もしかして先輩、留年して今30過ぎとか……!」

「俺は密かに有能星からきたエイリアンだと思ってる。」




本当に、有能星からやってきたエイリアン並に、先輩は仕事が出来るって事だ。
確かに只者じゃない雰囲気はひしひしと感じていたし、そもそも彼だって連盟総長なんだ。
規格外の人間なのは重々承知だけど、本当に凄すぎる。

まるで遊んで歩いてるように見える人だけど、本当は仕事人間だっていう先輩の情報が頭にインプットされたよね。




先輩の話はそこで終わって。その後は他愛の無い話をして、しばらくしてから、そうだ!と思いついたように灰音は笑顔で手を叩いた。

「明日夜ご飯、マーケットいこっか。」

「行きたい!」


私は一も二もなくその話に飛びついた。

なんていったって、ロンドンのマーケットは大好きなんです。



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