Darkness~暗黒夢~
家にあるデータで間に合わせよう。
両サイドに立ち並ぶ喧しいネオンの中、探している時間がもったいないと頭を切り替えようと勤める。しかし、きちんとしまったはずのデザイン画はどこに行ってしまったのか、どうしても腑に落ちなかった。
帰宅した剣は早速、USBメモリからデータを引き出し、最終チェックを済ませた後、再びデータをUSBメモリに保存した。
パソコン画面に表示されているデータ転送ウィンドウをじっと見つめ、その速やかな作業にやや安堵の表情を見せた後、今度は紛失しないよう、USBメモリを鍵のかかる引き出しにしっかりと保管する。そしてそれを終えた後、剣はそのまま冷蔵庫に向かい、愛飲しているウイスキーとロックアイス、グラスを手に戻り、酒の準備を始めた。
ロックアイスを入れたグラスにウイスキーを注いだ後、マドラーを忘れてしまった事に気づく。立ち上がればすむ話だが、何だか億劫だ。剣はしばし思案した後、いつもの物静かな眼差しで、長く伸びた左手の人差し指をマドラー代わりにグラスの中へと挿入し、カラカラと音をたてながら、中のウイスキーとロックアイスをかき混ぜた。
透明で茶色の液体と、氷山の欠片を思わせる角ばったロックアイスが、グラスと言う名の小さな海の中で、左方向にグルグル回る。かき混ぜて潤った指をグラスから引き上げると、剣は無造作にそれを側のタオルで拭い、出来上がったばかりのウイスキーのロックをあおった。
グラスの中で氷が鳴り、剣の心がほんの少し癒される。と、突然何かが閃き、剣はグラスを手にパソコンの前に戻り、落としてまもない電源を再び入れた。
低く唸り声をあげるパソコンの立ち上がりの遅さに少し苛つく。気を紛らわす為に再びウイスキーを口に運び、剣は一息ついた。
よし。
グラスをデスクに置き、長く繊細な指で包むようにマウスを操作する。剣は先程保存したばかりのデータを呼び出すと、カチカチとマウスをクリックしながら、閃いたデザインを自分の脳からパソコンへとアップロードした。
いいだろう。納得のいくものが出来上がり、微かに口角が緩む。薄く均等な唇は、再びウイスキーを欲し、連動して細く長い腕が動いた。
明日の朝一で投函しよう。出来上がったデザインを印刷し、最終チェックをして封筒に入れて封をする。その頭には既に行方不明になってしまったデザイン画の事は消えてしまっていた。
あの時に……。
ゆらゆらと揺れる琥珀色の酒のように、剣の中の“グラス”に溢れる自責の念。あの日以来、このグラスの中のロックアイスのように、冷たく堅い氷に封印してしまった自分の心。
両サイドに立ち並ぶ喧しいネオンの中、探している時間がもったいないと頭を切り替えようと勤める。しかし、きちんとしまったはずのデザイン画はどこに行ってしまったのか、どうしても腑に落ちなかった。
帰宅した剣は早速、USBメモリからデータを引き出し、最終チェックを済ませた後、再びデータをUSBメモリに保存した。
パソコン画面に表示されているデータ転送ウィンドウをじっと見つめ、その速やかな作業にやや安堵の表情を見せた後、今度は紛失しないよう、USBメモリを鍵のかかる引き出しにしっかりと保管する。そしてそれを終えた後、剣はそのまま冷蔵庫に向かい、愛飲しているウイスキーとロックアイス、グラスを手に戻り、酒の準備を始めた。
ロックアイスを入れたグラスにウイスキーを注いだ後、マドラーを忘れてしまった事に気づく。立ち上がればすむ話だが、何だか億劫だ。剣はしばし思案した後、いつもの物静かな眼差しで、長く伸びた左手の人差し指をマドラー代わりにグラスの中へと挿入し、カラカラと音をたてながら、中のウイスキーとロックアイスをかき混ぜた。
透明で茶色の液体と、氷山の欠片を思わせる角ばったロックアイスが、グラスと言う名の小さな海の中で、左方向にグルグル回る。かき混ぜて潤った指をグラスから引き上げると、剣は無造作にそれを側のタオルで拭い、出来上がったばかりのウイスキーのロックをあおった。
グラスの中で氷が鳴り、剣の心がほんの少し癒される。と、突然何かが閃き、剣はグラスを手にパソコンの前に戻り、落としてまもない電源を再び入れた。
低く唸り声をあげるパソコンの立ち上がりの遅さに少し苛つく。気を紛らわす為に再びウイスキーを口に運び、剣は一息ついた。
よし。
グラスをデスクに置き、長く繊細な指で包むようにマウスを操作する。剣は先程保存したばかりのデータを呼び出すと、カチカチとマウスをクリックしながら、閃いたデザインを自分の脳からパソコンへとアップロードした。
いいだろう。納得のいくものが出来上がり、微かに口角が緩む。薄く均等な唇は、再びウイスキーを欲し、連動して細く長い腕が動いた。
明日の朝一で投函しよう。出来上がったデザインを印刷し、最終チェックをして封筒に入れて封をする。その頭には既に行方不明になってしまったデザイン画の事は消えてしまっていた。
あの時に……。
ゆらゆらと揺れる琥珀色の酒のように、剣の中の“グラス”に溢れる自責の念。あの日以来、このグラスの中のロックアイスのように、冷たく堅い氷に封印してしまった自分の心。