秘密のイケメンさん
イケメンオネエの過去
 次の日、店に行きたくなくて、近くをウロウロしていると、美容師のおねえさんにばったり会った。

「山川ちゃん、どうしたの?」

 開店前の美容室にお邪魔させてもらい、先生のことを相談した。

 そうしたら、とても驚いた顔をした。

「あの人がオネエのふりしてるって知ってるの、私だけよ。……そう、あなたには本性さらけ出したんだ」

「どういうことですか?」

「あの人ね、昔命かけてもいいくらい、愛した人がいたの。私の親友だったんだけどね」

 その人はもうすでに事故で他界した人だった。

 先生はその人の死を認めることができず、その人の代わりを探していたのだ。言われてみれば、先輩の伊藤さんも前田さんも、私も、似たような髪型をしている。顔立ちも似ていると言えば似ている。

 そして、自分の本性を人に見透かされたくない先生は、ずっとオネエのふりをしているんだとか……。


「あなたに本性を見せたのは一歩前進ってとこかしら」

 美容師のお姉さんはそんなことも言っていたけど、私はショックが大きかった。

 所詮その人の代わりなんだ。先生がオネエだろうがオネエじゃなかろうが、気持ちが私にあるわけではないという事が嫌というほどわかった。




 少し遅刻して店に入った私は、デザイナー室に呼ばれた。

 部屋に入るなり、窓の方を向いたままの先生に怒鳴られた。

「なにやってたの?!」

「す、すいません。寝坊……しました」

「たるんでるわよ!」

 だれのせいだ。

「これから気を付けます」

「心配……したのよ」

「え?」

 先生は私と目もあわさず、でも、私の方に向かって歩いてきた。

 大きな手が私に向かってくる。たたかれる!と思った瞬間、私の後頭部をつかんで、自分の胸に押し当てた。

 先生のがっしりした胸が頬に当たる。息ができなかった。

 もう全身が心臓になったんじゃないかと思うくらい、脈打った。

 お願い、早く放してくれないと、私の心臓が持たない。

 そして耳元で

「おまえまで、俺の前からいなくなるなよ」

 イケメンボイス……もうだめ。先生が好き。好きで好きでしかたない。この気持ちはもう止められない。

 頭がしびれてる。気を失いそうだ。もう何でもいい。誰かの代わりでもいい。

 ……本気でそう思った。

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