初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
「……ね、聞く?」
「どうして人物写真は撮りたがらないのか、か? べつに聞いてもいいけど、地雷だろ、それ」
「持田先生の結婚祝い、的な?」
胡乱な目を向ける百井くんに、ちょっとおどけた口調で言うと、彼は間髪入れずに「意味わかんねー」と毒づいて自分の定位置――イーゼルの向こう側に戻っていく。
それにわたしのほうも「そんなふうに言わなくたっていいでしょー?」と若干不貞腐れた調子で反論ながら、立てかけたキャンバスにすっかり隠れてしまった百井くんの姿を目で追った。
……こんな日くらい、実結先輩のところに駆けつけて抱きしめてあげたらいいのに。
いつものように飄々と、淡々とパレットと絵筆をとる百井くんの姿に、そう思わないわけはなかった。
けれど、それを〝しない〟百井くんは、きっとわたしなんかよりずっとずっと大人なんだろうとも思う。
「で、言わないわけ」
胸になんとも言えない切ない感情が込み上げ、思わず唇を噛みしめてしまうと、色とりどりの絵の具が絞り出されたパレットを左手に、色を含ませた絵筆を右手に持った百井くんが、若干急かすような口調でキャンパスの横からわたしをのぞいてきた。