ランチタイムの王子様!

「“美味しい”って言われなくても良かったんです」

見え透いた嘘やお世辞が欲しかったわけではない。

「作ってくれてありがとうって言ってもらえれば、それだけで良かったんです」

彼の為に食事を作っている間、私は確かに幸せだった。

どんな感想をくれるだろう、喜んでくれるかな、と想像するだけで嬉しくなって、慣れない料理に格闘する労力を惜しむようなことをしなかった。

だからこそ余計に彼の言葉に傷ついたのだ。

……初めて誰かのために作った料理だったから。

何年も前の出来事なのに自分でも思っていた以上に大きなトラウマとなって、心を縛り付けている。

「フィル・ルージュの皆さんには月曜日に謝ります。許してもらえるか分かりませんけど」

「バカですね。その元カレという男は」

王子さんは泣き出しそうになっていた私を慰めるように頭を撫でてくれた。

彼らしからぬ優しさになぜかほっとして、余計に涙が出そうになった。

ずっと怖い怖いと思いこんでいたけれど、嘘をついていたことを会社の人には黙っていてくれたし、その理由だって黙って聞いてくれた。

王子さんは無愛想でお堅くて融通が利かないだけで、悪い人じゃないんだよな……。

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