白衣の変人
高給バイトの罠
「終わった………。」


用紙を集める音がやけに大きく響く。周りと同じように、少女“汐沢真璃(しおさわまり)”は緊張の糸を解いた。人並みには頑張った受験勉強も、この一回のテストで全ては終わる。もっとやっていればと後悔している者、もう次の事を考えている者、様々な人間がひしめき合うここはセンター入試の試験会場だ。真璃は特に何の感想もなく、ただ成績だ勉強だから解放された嬉しさに浸っていた。また、折角自由になれたのだから今までやってみたいと思っていたバイトでも始めようかと考えていた。


試験会場を後にして大きく伸びをする。きっと沢山の友人が同じ試験会場で戦っていたことだろうが、今は一人でいたかった。どうせ会っても試験の話にしかならないだろうからと踏んでいるのである。近場の喫茶店に入り、紅茶を頼んでスマートフォンを取り出す。検索窓に“バイト情報”と打ち込めば、膨大な量の検索結果が出てくる。その中から距離、時給、出勤日数などの条件が良さそうなものを探した。


勿論年頃であるから、お金はそれなりに遣うし、給料は高いに越したことはない……が、過度な肉体労働は勘弁して頂きたいわけで。


(これといってピンとくるものは……ん?)


スマートフォンをスクロールする中で、少々気になるものがあった。時給3000円。出勤日数は応相談。高校生以上、年齢職種性別不問。期間は今年度いっぱい。場所は、受かればこれから通うであろう大学からは程近い……有名大学の中だった。勤務内容は……。


(薬剤学教授の助手……?)


なんとも頭を使いそうなバイトだと思う。そもそも、大学教授の助手なんてものを高校生のガキにやらせて良いものかと疑問になる。だが、まあかなり条件は良い。真璃はその高給に惹かれて、必要事項を打ち込んで応募をした。
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