君といた季節の中で
君は、何処から来たの?

春の朗らかな風を纏ったような
暖かい君の仕草や声が

僕を捕まえて離さなかった。

あの春は、何処から来たのか?

君に会いたくて僕は、
何処から来たのか?

此処は何処なんだろう。

僕は、君の中でとても気持ちが良くて
ふわふわしながら漂っていたんだ。

君は、一体誰なのか?
何処にいるんだろう?


僕は、この草原を歩いていた。
君の残像を思い浮かべながら
君と抱き合ったその感触を
思い出していた。
何処に隠れてしまったのだろう。

僕は一体君に何をしたのか?
どうして出てきてくれないのか?

君の名も思い出せない。
一春風のように僕を通り抜けて去っていった君の名を思い出そうとしていた。

サラ?リラ?

春の草原を一人歩いていた。
本当によく覚えていなかった。
自分の事も良く分からなくなっていった。
海の香りがしてきた。
草原の突き当たりは、崖になっていて
その下は海になっていた。

僕はその崖の下の海の白波を
ずっと見ていた。
僕の意識の中で何かが蘇ってきた。
その白い白いトンネルを僕は
走り出していた。光の中へと

僕は目が覚めた。そこは砂浜だった。
横になっていた体を起こして周りを見渡した。
彼女がいるような気がした。
だけどそこは、砂浜だった。
海が広がっていた。波打つ音だけが
した。
「まさる」
僕を呼ぶ声がした。僕は振り返った。
「まさる。此処で何してるの?」
彼女がニコニコ笑って僕の顔を覗き込んで笑っていた。
「歩こう」彼女が僕の手を握って僕を誘った。
僕は、彼女と手をつなぎ海辺を歩いた。
彼女は、白い紐付きサンダルを脱いで
左手に持って裸足で歩いていた。
僕は、波が来るときに濡れないように歩いていた。
大きな波が来た。
「ぎゃ〜」っと彼女も波から逃れようとしたけど僕は、彼女の手を離してしまった。彼女も僕もそのまま倒れて
びしょびしょになりながら倒れて波を浴びた。
二人は、笑っていた。「あはははは」

彼女も僕も泥だらけになっていた。

僕は彼女の名前を思い出せなかった。

「ねえ、君の名前はなんて言うの?」

「忘れたの?どうして?」
彼女は、悲しげな顔をしながら
「私は、サラだよ。」

そう言って彼女は走り出した。
僕は彼女を追いかけた。
何故か追いつかなかった。
春の花の香りがした。僕は一瞬目を閉じた。
また白い白いトンネルが目の前に現れて僕はそのまま走っていった。
闇の中へ

僕は、暗くなった元いた草原の端の崖の上に立っていた。

夜の春の香りが強く僕を吹き付けて
断崖下の海の濃いそして危ない場所が
青白く光って見えた。

僕は、これから何処に行けばいいのか。

分からぬままそこを去った。
家に帰ろ。そう思って再び歩いた。
一人で草原の中で迷子になった寂しさを噛み締めながら
サラというあの人の事を思い出しながら

歩いていると丘の上に家があった。
僕はその家を訪ねた。
そこには大きな暖炉があった。
テーブルに椅子が三つあった。
奥に一人用のソファーがあった。

誰も住んでいないように思えたが
声が聞こえてくる。
「まさる」聞き覚えのある声がした。
振り向くとそこにサラが立っていた。
「サラ」僕は寂しい気持ちが溢れてきた。
僕は彼女の胸に飛び込んで泣いた。

「まさる、今日は変だよ。どうしちゃったの?夕飯食べよう。」
そういって台所から夕飯を運んできた。

薄暗かった部屋の中がなんだか
ほんわかロウソクの灯火が温かく感じて明るくなった。

僕とサラはテーブルに座った。
サラはニコニコしていた。
「いただきます」
二人で食事をしていた。美味しかった。
嬉しくて僕は今度は嬉し涙が出そうになった。
そんな時彼女が空いた椅子に目をやり悲しそうな顔をした。

僕は不安になり
「どうしたのサラ?」そう聞くと
サラは驚いた様子で「なんでもないよ。」と苦笑いを浮かべた。

僕は、色んなことが不確かだった。
覚えていなかった。

彼女の事も自分の事も何も思い出せぬままこうして彼女と家で二人でいた。
彼女は僕の何なのか?

僕には分からなかった。

僕は、彼女に正直に言って色々教えてもらおうか、少しづつ話をして
僕や彼女の事を知ろうか迷っていた。

〜〜忘れちゃったの?どうして?〜〜
浜辺の会話が気になった。
自分の事を忘れてしまった事を話したら彼女が悲しむだろうと
僕は、言えずにいたのだ。

でも大事な事のように思った。

僕は、でも当分記憶喪失の状態で
暮らそうと思った。
< 1 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop