催涙雨は流れない
「乱華。ベガとアルタイルと、後、はくちょう座のデネブが作る三角形を、夏の大三角って言うんだよ。知ってた?」



「…ううん、知らない。右凍は、物知りだね。」



七夕伝説のナレーション中、右凍が問うとややあって乱華は答える。



「そんなこと……あるけど。」



「ふふっ、なにそれ。」



暗がりでも、自慢気に言う右凍の顔が、乱華には見えた気がした。



「あっ、彦星!」


「絡桔くん、声大きいよ~」


「ごめん、ごめん。校外学習ん時、すぐに見付けられなかったからさ、ついね。」



「ったく…、あの時と同じじゃねーか。」



映し出された星空で見付けた彦星に、指を指しながら嬉しそうに声をあげた右凍。


梟仔と獺行は、すぐに反応して注意する。



しかし、右凍のはしゃぐ姿を見つめる乱華の意識は、違うところにあった。



「(ごめん、右凍。夏の大三角知ってるよ。だって………あの後、調べたんだから。)」



決して嘘を付いたのではない。



ただ、右凍が知らないだけ。


ただ、乱華が臆病だっただけ。



鮮明に思い出せる

右凍が知らない

乱華だけの秘密の物語
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