お菓子な男の子
花梨ちゃんはまだ私を見ていた。そんな強い思いがあったなんて……


「私は……」
「知ってますよ。アンちゃん先輩はコウちゃんのこと、恋愛的な意味で好きではないこと。でも私の気持ちを知っておいてもらう必要があったので。じゃあ寝ましょうか」


違うよ、花梨ちゃん。私は……その次に言いたかったこと。


“私は人を好きになることができない”


自分から深く関わることを避けてしまう。なぜなら怖いから。そんな人を失った悲しみを覚えているから。だから何にも知らない。一緒にいるのに、真島くんのことも、千夜先輩のことも久喜会長のことも……斗真のこともきっと、表面上のみんなしか知らない。


でもそれでいいと思ってる。思ってた、のに……


「アンちゃん先輩!電気消しますから早く!」
「ご、ごめん」


花梨ちゃんは“消しますから”と同時に電気を本当に消した。
立ち尽くしていた私は、暗闇の中慌ててベッドにかけよった。


「リンゴは?」
「リンゴちゃん先輩はぬいぐるみ抱きしめてもう夢の中です。ベッドのど真ん中占領されちゃったんで私、リンゴちゃん先輩の左側に寝ます。アンちゃん先輩は反対側で……」
「それマズいよ、花梨ちゃん」
「え?」


暗闇で見えないから、頭の中に現状を描き出してみた。
リンゴが真ん中、その左側に花梨ちゃん、反対側に私……つまり、リンゴが私たちの間にいるってことで……


「リンゴ、寝相がものすんごく悪いの!だからそのままじゃ……」
「うはぁ~っ‼バニラの川だぁ‼」 ドゴッ
「痛っっ‼‼」


遅かった。リンゴがわけのわかんない寝言とともに、花梨ちゃんを襲った音がした。


「いきなりキックされ……」
「ヨーグルトのカスピ海って青くないから不思議~っ‼‼」 バゴッ
「だから痛いっ‼‼」


このままじゃ花梨ちゃんがもたない‼……気がする。


「仕方ないからリンゴを転がして床に‼」
「電気つけます‼」


明るくなった室内。浮き彫りになったリンゴの実体。


「じゃあ花梨ちゃんはそっちから押して。私引っ張るから」
「はい。せーのっ‼‼」


さっきまでのセンチな気持ちはどこかへいってしまった。
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