罪づけ
罪づけ

それは、歪んだ関係。





ぎしり、とベッドが軋む音。彼が立ち上がったのと同時に衣擦れの音もする。

その気配に薄らいでいた意識が戻ってきて、はぁっと息を吐いた。



上を向いていた体をくるりと反転。むやみに素肌が見えないように、布団に隠れながらうつ伏せになる。

枕に顔を半分ほどうずめながら、そっと彼を見上げた。



「────もうそんな時間?」

「うん。誰かさんが離してくれなかったからいつもより遅いかも」

「透吾(とうご)、それセクハラって言うのよ?」



眉をひそめてそう言えば、透吾がシャツに腕を通しながら軽やかに笑い声をあげた。



「ねぇ」

「ん?」



奥さんは元気?



なんて。
私、なにを言おうとしてるの……。



胸の中にあるはずの想いが、言葉になる前に弾けて消える。シャボン玉よりずっとずっと儚い。



「愛(あい)?」



どうかしたかと尋ねる透吾になんでもないと返した。



「それより急ぐんでしょう」

「そうだった!」



ネクタイがシュッと音を立てて、彼の首元を締めつける。

整えられた服装は、2時間ほど前────私の部屋に来る前と変わらない。



常にさらりと梳いたばかりのような艶やかな黒髪。表情はとても豊かで人懐こく、子どもみたいな印象。

だけど指先までゴツゴツとした手は、大人の男性の手。



あっという間にいつも通りの愛妻家、前野 透吾(まえの とうご)の姿に戻る。



「じゃあ、また連絡する」



そう言って、透吾が部屋を出て行く。うん、と囁くように呟いた声を拾ったのか、優しい笑みを浮かべていた。

ひらり、手を振りあった。









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