罪づけ




仕事の話、最近食べた美味しいものの話。なんてことない、日常を。

言葉を交わすことで共有する。



その幸せを噛み締めながらお酒は進んで。

とぷん、と注がれたワイン。何度も空になるグラス。

繰り返して、瓶が底を尽いて……言葉が尽きる。



それは、自然に。同じタイミングで呼吸をするように。

会話が止まる。声を失う。



沈黙が、落ちて。
そしてふ、と目が合った。



とろんとお酒のせいで熱の含んだ彼の甘い瞳。それが、お酒だけじゃない熱に浸った。

そこに同じような瞳を持つ自分が映って、浮かべていた笑みを消す。



吸い寄せられるように唇を重ねた。

音もなく、何度も。



離れては、触れ合う。

それだけのことなのに。どうして、もう1度と思ってしまうのかしら。



……ううん、きっとわかってる。

吸い寄せられるのは、気持ちいいから。だけどなにより愛おしいから。



ソファについた彼の手の上に自身のものを重ねる。私の重みでソファが更に沈む。

そのまま指を絡めて、持ち上げた。



戯れのように、指先に唇を寄せた。

ちゅっと音を立てて軽やかに、何度も口づける。小さな音はふたりの空気に色を乗せていくよう。

甘い雰囲気が深くなる。



くすぐったそうに目を細める彼と目を合わせたまま。唇を手の甲の方へ、上へと上げていって。

そして硬く冷たい金属に触れた。



銀色の。鈍く、眩しい指輪。

奥さんとの誓いの証に、私はキスをしていた。






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