ジキルとハイドな彼
下関先輩は何も言い返せず、フンと鼻を鳴らして席を立つとドカドカと歩いて何処かへいってしまった。

「沖本さん、流石ですね」

隣の席に座っている後輩島村がこそっと声を掛けてくる。

島村は入社3年目で、高学歴の割にボンヤリしていて草食系男子を地で行くようなキャラだ。

まあね、と言って溜息をつきメールのチェックをする。

「今日は朝からすごく冴えてるみたいですけど、週末何かいい事ありました?」

乙女のように小首をかしげて島村が尋ねる。

「その正反対。もの凄く嫌な事があったの」私は眉間に皺を寄せて言う。

「それに比べたら、下関先輩がゴネた所で 私にとっては子供を咎めるようなものよ」

「そりゃあ大人の階段登っちゃいましたね」島村が呑気な口調で相槌を打つ。

まあ、そんなとこ、と言ってさらりと流した。


トラブル処理に追われて昼食を食べる時間も惜しむ程忙しい。

こうして仕事に没頭出来るのは幸いだったかもしれない。

余計な感傷に浸る余裕もない。

非日常的な事ばかり続いた週末から一気に現実に引き戻されるようだ。

下関先輩同席のもと、印刷会社との打合せの結果、なんとか至急の対応で、当初より2日遅れでキャンペーンのお知らせを顧客に投函出来そうだ。

その後、トラブル発生の経緯と今後の対策について話し合い、なんとか報告書として形に纏める。

…勿論、私が。

その代わりに今後の対策として、Webメールでのアプローチを企画として提案出来たのでそれもよしとしよう。

やっぱり今日の私は冴えている。
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