ジキルとハイドな彼
仕事が終わり会社のビルから出ると、冷たい風が吹きつけて思わずブルリと震えあがる。

直ぐ目の前に見覚えのあるプリウスが停車していた。

小鳥遊め、目立つところには停めるな、とあれほど言ったのに。

私は肩をいからせながら速足で車に乗り込んでドアを閉める。

「ちょっと!会社の前に車停めないでよ!」

「まずかった?ごめんね」

「マズイわよ!誰かに見られたらどーすんの!」

苛ただしげに言って声の方に振り向くと、そこにチャラい小鳥遊の姿はなかった。

その代わりに、会いたくてたまらなかった見目麗しい彼の姿があった。

「コウ…どうして貴方が」

「小鳥遊と代わって、俺が迎えに来たんだ。その方が合理的でしょ?どうせ同じ家に帰るんだから」

「そ、それはそうだけど…」

尊大な物言いをしたことを後悔する。

「小鳥遊も、あーざっす!って言いいながら喜んで帰ってったよ」

コウのモノマネが思いの外似ていたので、思わず笑ってしまった。

「結構似てるだろ」といってコウは得意気に言う。

「それよりも腹減ったな。薫、ご飯は?」

「まだ…だけど」

「じゃあ、なんか食べて帰ろう」

「やった!」私が小さくガッツポーズを作るのを見てコウはクスリと微笑んだ。
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