ジキルとハイドな彼
「下心がない男なんているわけない」

小鳥遊言った、言いきった。

「葛城さんは薫の事を心配して親切で匿ってくれたんじゃないの?」

友里恵は箸を唇にあてながら首を傾げる。

「まぁ、それはそうなんすけど、あわよくば、って気持ちはあったでしょ。少なからず」

小鳥遊はビシッと箸の先で私を指した。

その時、聴取室の扉が開き、下心のあるイケメン刑事が姿を現した。上司の尾花も一緒だ。

私達三人はピタリと会話を辞めて、一斉にコウの顔に視線を向ける。

「私の顔に何か着いていますか?」顔を凝視されてコウは居心地が悪そうだ。

「沖本さん、本条さん、本日はご足労いただきありがとうございます」

全く空気を読む事なく尾花は二コリと微笑んだ。

「まったく、お前もこんなところで油を売って」

コウは私達と一緒にカツ丼を食べる小鳥遊を睨みつける。

「もしかして葛城さんも食べたかったですか?島田屋のカツ丼」

小鳥遊がハッとした表情を浮かべると「…そーゆー問題じゃない」
コウは呆れて目を細めた。

あの日の一件以来コウは連日帰りが遅く、まともに顔を合わせるのは今日が始めてだ。

私の膝で寛いでいた可愛い彼は幻だったんじゃないかと思うほど、今や澄ました顔をしている。

「お楽しみ」の続きは当分先になるに違いない。いや、寧ろこの先ないかもしれない。
< 210 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop