ジキルとハイドな彼
「ここから自ら飛び降りるか、それともこのまま銃で撃たれて死ぬのはどっちがいい?選ばせてやるよ」

そんなの選べない。どっちも絶対嫌だ。

しかし、そうも言ってられない状況だ。

敢えて選ぶなら…

「飛び降りたらこのビルの持ち主に悪いでしょ。いわくつきの物件、なんて言われちゃって」

「俺のビルだ。心配するな」

死んだら呪縛霊になってこの物件を祟ってやろうと心に決めた。

「でも、私は親から授かった命を自分で捨てることなんて出来ない」

聡はクスクス笑いだした。

「真っ当な両親に何の疑いもなく愛情を注がれて何不自由なくそだったお嬢さんだな」

「普通でしょ」

「それが普通だって思えることが恵まれてるんだ」聡は抑揚のない声で言い放つ。

銃口が真っ直ぐ私を捉えた瞬間、コウの微笑みが脳裏に浮かんだ。


最後に一目でいいから貴方に会いたかった。

無防備な寝顔、ノートパソコンに向かう真剣な横顔、仕事中の取り澄ましたポーカーフェース

そして必死に私を助けに来てくれた寝巻き姿

涙が目から溢れてくる。

私はこんなにも心を奪われている。

叶わぬ想いでも会って伝えたかった。

「さようなら、薫」

目をギュッと固く瞑る。

その瞬間、銃声が鳴り響いた。
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