ジキルとハイドな彼
「写真で見るよかいい女っすね」

小鳥遊はグラスに残った2杯目のアイスコーヒーをズズッと啜った。

俺たちは慌てて席を立ち店を出ると沖本薫の後を追う。

沖本薫の自宅は奇しくも俺の住むマンションと目と鼻の先にある。

会社の最寄り駅から地下鉄を二つほど乗り継ぎ、自宅のある春日町駅で降りる。

途中スーパーで見切り品の弁当と缶ビールを買って自宅のアパートへ帰って行った。

アラサー独身OLのリアルな日常を垣間見ただけで、この日は特に不審な行動は見受けられなかった。

それから数日間、俺と小鳥遊は交代で沖本薫を尾行した。

毎日遅くまで残業して、スーパーかコンビニで弁当と缶ビールを買って帰る。

華やかな外見とは裏腹に、驚くほど地味で単調な日常だ。

たまにはOLらしく飲みに行ったり、カルチャースクールにでも行けばいいのに、と思わず心配になるほどだ。

余計なお世話だけど。


ある休日、沖本薫の自宅近くにある骨董品店で張り込んでいた時の事だった。

夕方頃にいつもと違っためかしこんだ格好をして、沖本薫が疲れた顔でフラフラと帰ってきた。

あまり似合ってないサーモンピンクのドレスにいつものトレンチコートを羽織り、髪はハーフアップに結いあげられている。

手に某結婚式場の紙袋を持っているので、披露宴にでも出席してきたのだろう。

通行人にぶつかって、沖本薫はよろめくと、そのまま並んだ放置自転車の列に突っ込んだ。

自転車は喧しい音を立てて次々と倒れて行く。沖本薫は座りこみながら呆然とその行く末を見守っていた。


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