さよならだね。



しばらく愁くんの病室で待っていたら、愁くんが戻ってきた。



リハビリをすごく頑張っているから、愁くんはもう車イス生活を終えていた。


点滴の支柱を支えに、自分の足で歩けるようになった。





「ゆら、来てたのか。」


「うん。愁くんは、散歩でもしてたの?」


「ああ、香織と中庭でコーヒー飲んでた。」


「そっか。」



今日も無理して笑う。



無理して上げる口角のせいで、頬がぴくぴく痙攣しそうになる。




愁くんは素直すぎるよ。


香織さんといたこと、隠してくれてもいいのに。



それだけ、あたしのことは、気に留めてないってことなのかな。






「そういえば、ゆらに報告がある。」


「えっ?」



あたしの脳裏に浮かぶ。


香織さんと付き合うことになった、そんな報告。




「なに難しい顔してんの。すげー良い報告なんだけど?」


「あ、ごめん。どんな報告?」


「俺さ、来週には退院できるってさ。」




ああ、あたしはバカだ。


香織さんの存在に、怯えすぎている。



愁くんの笑顔を見て、ホッと胸をなでおろす。



なのに、、




「それに、香織も明後日に退院するらしい。」




ああ、もう愁くんは、、


本当に素直すぎるんだよ。



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