カゲロウデイズ twosidestory
Side White
公園の入り口に着いた。
いつもなら子供たちが遊んでいる滑り台のような大きな石のオブジェクトが今日は誰もいなかった。
実は、海が良く見えるお気に入りの場所だった。
そこに座って少しの間景色を楽しんでいると、後ろから聞き慣れた声がした。
「よっ、偶然だな」
少し驚いたが、ちょうど会いたいと思っていたので嬉しかった。
私は振り向き、笑顔で言った。
「うん、偶然だね」

彼女の隣に座って、こう言った。
「今日は良い天気だな」
「うん、そうだね」
「なんか、こう、病気になりそうなくらい眩しい日差しだな」
すると彼女はプッと笑い、
「なにその表現の仕方!おっかしー」
と、今日の天気に負けないくらいの眩しい笑顔を見せた。
この笑顔を見る度にこっちも笑顔になる。
「確かにな!ハハハ」
と笑いあった。

少しの間、話していると彼女の足元に一匹の黒猫がのどを鳴らしながらすり寄って来た。
「あっ、可愛いー!」
「おっ、本当だな!」
と撫でていると彼女の膝の上に飛び乗り丸まってすやすやと寝てしまった。
「寝ちゃったね」
「・・・なんか・・・なぁ」
「何か言った?」
「いや・・・何でもないよ」
と返した。
しかし、彼の顔に一瞬影が過ったような気がした。

そういえば、と思って彼に何気ない質問をしてみた。
「そういや、夏って好きなの?」
彼はうーんと言って太陽を眩しそうに見つめながら何となくふてぶてしくこう返した。
「いや、夏は嫌いかなぁ、やたら喉渇くし暑いし」
「えーそうなの?私は好きだけどなぁ」

「あっ」
と言った。
黒猫がいきなり逃げ出したからだ。
追いかけようとした。
が、彼が私の手首を掴んだ。
少し文句を言おうとしたが彼の顔を見て喉でその文句は止まってしまった。
「・・・どうしたの?」
彼の顔が青ざめていたからだ。
「・・・なぁ、もう今日は帰ろうか」
「えっ・・・まぁ、良いけど」
ちょっと日射しも酷くなってきたし、そろそろ昼御飯を食べたくなってきた。
私達は公園の出口に向かって歩き出した。
「あっそうだ!お昼なんか奢ってよ!」
「えっ!?・・・まぁ、良いけどさ・・・ならちょっと待ってくれ、ATMで引き出してくるからさ」
そう言って彼はイヤホンを耳につけ出口から出て左に歩き出した。
私は、早くしてね~と言って出口から右に出て自転車置き場に向かおうとした。
だが。
「お、おい・・・あれ」
そんな事を言って、男性が上を見上げていた。
よく見ると周りの人は全員上を見ていた。
なんだろうと思い、見上げてみると理解した。
「あっ・・・!」
あのビルの工場現場の屋上に設置されたクレーンが吊っていた鉄骨が強風に煽られ今にも落ちそうになっていた。
そしてそれは。
出口から左側だった。
それを理解した瞬間、鉄骨が落ちた。
私は、声を上げ、彼を追いかけようとした。
だが、彼との距離は遠く、イヤホンで音楽を聞いて声は届かなかった。
彼は、何かに気づいて上を見上げた。
そして目を見開き、
「どうして」
と言ったのが見えた。
私はあと5mまで追い付いていた。
が無慈悲に彼と私の間に鉄骨が壁のように突き刺さった。
そして、私は鉄骨の隙間から。
数本の鉄骨が彼を貫いたのを見た。
一瞬の静寂。
そして、周りの人達は悲鳴を上げてパニックに陥った。
「ねぇ・・・嘘だよね・・・ねぇ・・・!」
私はそう言った。
「嘘じゃないよ」
私の声が何故か背後から聞こえた。
振り返るとそこには私がいた。
ゆらゆらと揺れる陽炎のような
私が。
その私は無表情で私を見ていた。
あなたは、と言おうとしたが瞬きの瞬間に消えた。
私は、また、前を向き、追い付いてきた彼の死という事実を認識し、悲鳴を上げ、泣いた。
ショックで意識が遠のき倒れた。
遠のく意識のなか、何故か彼が笑みを浮かべていたのを私は見た。

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