今、ここであなたに誓わせて

「うちは高校卒業したての子がよく入ってくるんだけど、その中でも篤司君は年齢の割にすごく落ち着いてて大人びてる子だと思ってたの。そんな子に、こんな隠し子がいるとは思わなかったけど。でも今きっと遊びたい盛りでしょうに、ちゃんとこの子の面倒見て偉いね」
「……いや、誰かに助けてもらわなきゃだめでした。なんとか二人で暮らしていけないか俺なりに頑張ってみたんですけど、結局りんに辛い思いをさせるだけでした」
「よく頑張ったよ、大変だったでしょう」

その言葉に思わず泣きそうになって、正座していた太ももの上にぐっと握りこぶしを作って堪えた。それから、娘さんも混ざって5人で食卓を囲んだ。久しぶりの大人数の食事にりんは嬉しかったようでずっとにこにこ笑っていた。

それからというものの、すっかりりんはおばさんに懐いて仕事中は預かってもらうようになった。そして娘の亜弓ちゃんにも学校が早く終わった日は面倒を見てもらったりしていた。子どもは苦手そうに見えたが、意外とそうでもないようでりんもよく懐いていた。
俺もおばさんに簡単な料理を教えてもらうようになり、やっとりんに家庭料理といえるようなものを食べさせてやれるようになった。そしてあの夜泣きと寝つきの悪さはストレスからだったのか、社長の家で世話になるようになってからはちゃんと寝てくれるようになった。

先輩達も俺の家庭事情を理解してくれたようで残業を代わってもらったり、俺の体調を気にかけてもらえるようになった。

お昼ご飯は時々現場ではなく事務所の休憩室で食べることもあり、毎回この時間になるとりんは休憩室を覗きに来ているのか俺の姿を見つけるとこっそり俺の元へやってくる。社長の家族には大分慣れたが、スタッフの体格の良い強面達は怖いのか事務所では俺の影に隠れていることが多い。
パイプ椅子に座る俺の膝元によじ登り、両足の間にポジションを取るとそこで小さなお弁当を広げ始めた。すると一人の同僚が俺の目の前に座って、りんに話しかける。

「りんちゃん、今日のご飯何?」
「……」

同僚のひげ面にあからさまに怖がるりんは、小さな体をびくっと震わせると後ろを向いて俺の作業着にしがみついた。その姿にもう一人同僚がやって来てりんに話しかけた。

「ごめんねりんちゃん、このお兄ちゃん怖いよね」

その声に顔だけちらっと後ろを向くと、そこにはプリンを手にした同僚が。

「今日はね、りんちゃんとお近づきになろうと思ってプリン買って来たんだ」
「うわーお前ずっけーぞ」

プリンに目がくぎ付けになるりん。プリンとその同僚の顔を困ったような顔で見る、どうやら葛藤しているようだ。

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