今、ここであなたに誓わせて


「私に合わせないで本気で走り出して良いから」
「ナメすぎ。さすがに無理だろ追いつかないって」
「良いから、皆陸上関連の子ばっかだし普通にバトンパスしてくるでしょ。絶対勝たなきゃいけないの」

リレーでこんなに緊張したのは初めてかもしれない。こんなに勝ちたいって、勝たなきゃいけないって思ったのもきっと初めて。でも、少しでも楽しんでくれたらいいなって。

私の思い出はお兄ちゃんのおかげで、良いものばかりだった。もちろん嫌だったり辛かったりしたものもあるけど、最終的にはお兄ちゃんに笑わされているのだ。

今日が小百合ちゃんにとって唯一の運動会の思い出になるのなら、最後はせめて笑って終わって欲しい。


そして玉入れは案の定、お兄ちゃん達の頑張りにより自分の組が勝った。だけど紅白の勝敗は今となっては正直どうでもいい。いよいよリレーが始まるのだ。

1年生から順番に女子から男子へとバトンを繋いでいく。地区対抗とだけあって、どの競技より応援席が1番盛り上がる。

1番早い子を選んでるだけあってなかなか拮抗している。ドキドキしながら小百合ちゃんの番を待った。

徒競走、紅白リレー、そしてこの地区対抗リレー。そこで争って来た子達と小百合ちゃんが走る、少し出遅れたけれど差は思ったより広がっていない。

小百合ちゃんの足がラインを踏んだ瞬間、遠慮なく本気で走り出した。届くか届かないかギリギリのライン。はいっと息を切らしながら少し上ずった声がして後ろへ手を伸ばした。そこへパシっと気持ちの良い音が鳴る。

通った。成功するか一か八かだったけど、綺麗なバトンパス。やっぱりリズム感良いから。なんて思いながら、必死に猛者共の後を追う。

徒競走の時とは足の運びが全然違う。バトンの重みからだろうか、1人、2人、と抜いていく。コーナーを回って真也が構える姿を見て真っ直ぐそこへ駆けていった。

私が言った通り本気で走り出した真也。だけどゾーン設定まで男子仕様なんて聞いてない。思いの外早い走り出しに、最後の力を振り絞る。最後の最後にバトンが通らなかったなんてオチは絶対嫌だ。




< 35 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop