今、ここであなたに誓わせて

18才/31才




◇ ◇ ◇


私が一人で寝るようになった頃、時々まだ寂しくなる夜があった。でも兄のところへ潜り込むのもなんだか気恥ずかしくて、こっそり兄のいない隙に部屋からシャツを一枚だけ盗んだことがあった。

寂しい時それをいつも抱いて眠った。私のお守り代わりのような、兄と一緒に眠らずとも兄と一緒に寝ているような気分になった。実は今でもそのシャツを大事に持っていたりする。いつもいい加減捨てようと思ってもなかなか手離せない。

今まで自分で自分が気持ち悪くて、小百合にだって言ったことのなかった話。海斗さんに打ち明けたら爆笑されて腕を小突いた。こういう話を話せる相手ができて良かった。海斗さんの存在があったから、今の今まで普通に兄妹として暮らしてこれたような気がする。


兄が好きだと自覚したのはいつ頃だったか。
中学生の頃に亜弓ちゃんを彼女だと紹介された時からだろうか。
あの時抱いた自分の居場所を奪われるんじゃないかという焦燥感と独占欲は、自分でも驚く位強烈なものでそれは自分の体の不調へ直結した。

自分が二人の別れの原因になったことも分かっていた、それを知りまた罪悪感でいっぱいになった。兄の彼女として申し分ないどころか、うちの兄には勿体ない位しっかりした女性だ。それをどうしても受け入れられない自分が腹立たしかったが、そこでもう自覚せざるを得なかった。

私はやっぱり兄が好きなのだと。

しかし兄にとって私は妹でしかない。この先どんな天変地異があろうとも、彼が私を一人の女として意識するようなことは絶対にない。これまで妹として溺愛されてきた日々は、皮肉にもそれを確固たるものとして裏付けてしまう。

違う人に目を向けなくては、と好きそうになれそうな人と付き合ってみた結果、学んだことはやっぱり兄以外の人はどうしたって好きになれないということだった。この人は違う、この人も違う。そうやって色んな人と付き合っては別れるのを繰り返した。

お兄ちゃんは、あの海へドライブへ行った以降、亜弓ちゃんと付き合い始めた。亜弓ちゃんに、まだ早いって頑なに断られてるって言ってたのに。

表面上は良かったじゃんなんて取り繕ったが、心の奥底ではまだ素直にそれを認めることができなかった。お願いだからまだ私のお兄ちゃんでいて、誰かのものになんてならないで。どうしても、そう思ってしまうのだ。

あの一件が引き金だったのだろう。
兄はあの後、私の顔をまともに見ることもできず、かといって分かりやすく狼狽えるでもなく、ただ淡々と静かにいつもの安全運転過ぎる運転で家路についたのだ。

私の方は、ついに言ってしまった、と顔を真っ青にして助手席から窓の外をずっと眺めていた。体の右側、右頬や右腕やらにチリチリ嫌な緊張感を感じながら。




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