~SPの彼に守られて~
「少しだけお水を飲ませてもらおうかな」

 ベットから降りると部屋を出て、照明が灯されていない真っ暗な廊下を歩き、階段を一段ずつ降りる。

 まだ3人はお店にいるのかな?鷲宮さんはかなり怒った顔をしていたけど、角井百貨店からまっすぐここ(お店)に帰らずに夜景が綺麗な湾岸エリアへ行ってしまったことに怒っているに違いないよね。

 お店に通じるドアを開けようと、右手をドアノブに掛けた。

「まだ犯人を確保していない以上は、むやみに単独行動を慎むべきだ」
「……以後気をつけます」

 お店の中の声が聞こえちゃったのでドアノブを開けようとした右手をそっと離し、動くことが出来ずにその場に立ちつくす。

 ドア越しに聞こえる鷲宮さんの声は落ち着いているけれど、それが怖いというか…、鷹野さんの声も落ち込んでいるように聞こえた。

 でも鷹野さんは気分転換できる場所として湾岸エリアに連れいってくれたので、悪気が合った訳じゃないから、あまり怒りすぎないで欲しいな。

「ただ、吉野様が追われ続けていて疲れが蓄積していたことにフォローが出来ていなかったのは、俺もまだまだということだな。鷹野、よくやった」
「それは俺がSPになりたての頃、鷲宮さんから『護るのは体だけじゃない、心も護れるSPになれ』と教えてもらって、それを実行したまでです」
「そんなことを言っていたか?」
「言っていましたよ。最初はどういう意味だよと思っていましたけど、今はそれが何となく分かってきました」

 そうだったんだ…、帰りに急に何処に連れていくかと思っていたけれど、私を夜景が素敵な湾岸エリアに連れて行ってくれたのは、そういう意味だったんだ。

 確かにずっと追われ続けていて、体もだけど精神的に疲れていたのもあったから、あの綺麗な夜景を観た時は嬉しかったなぁ。

 俺に惚れるなとか、最後まで護りたいから伝えるなとか言うけれど、こんな話を聞いちゃうとますます鷹野さんへの想いが募っちゃうじゃない。
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