ふりむいてよキャプテン
次に打席に入ったのは、髪の毛を一つにしばった背の高くて、モデルみたいなお母さん。

わー......、美人。
誰のお母さんだろう。


「こいっ!ヒロちゃんっ」


美人のお母さんは、バットを構えてマウンドのヒロくんの方をみる。


ヒロくんのお母さんなんだ。
......ヒロちゃんって。

あんなにえらそうなのに、家ではヒロちゃんなんて呼ばれてるんだ、と笑いをかみころしていると、眉間にしわをよせるヒロくん。


「このオバサン、アウトにしていいから」


そんな憎まれ口を叩いてはいても、さすがにいつものように速球をほうるのは気が引けたらしい。

さっきまでのお母さんたちの打席同様、ヒロくんはキャッチボールでもするかのようにゆるーく、キャッチーに向けてボールを放った。


カキン、と意外といい音がして、打球はショートのいつき先輩のもとへ。

いつき先輩はとっさに身構えてグローブを前に出したけれど、すぐにはっとした顔をして、ボールをとらずにトンネルした。


「おっと、しまったー。
おーい、レフトそっちいったぞー」


いつき先輩は自分がトンネルしたボールを追うこともしないで、後ろを向いてレフトに声をかける。

ゆっくりゆっくり、歩いてボールを拾いにいくレフト。
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